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浦和地方裁判所川越支部 昭和57年(ワ)70号 判決 1983年5月19日

(昭和五六年(ワ)第二六号事件)

原告

塩野芳松

外四二名

右原告ら訴訟代理人

長島佑享

香川實

被告

西武鉄道株式会社

右代表者

宮内巖

右訴訟代理人

中嶋忠三郎

遠藤和夫

丸山一夫

辻本年男

(昭和五六年(ワ)第七〇号事件)

原告

新井寛二郎

原告

前田信治

右原告ら訴訟代理人

長信佑享

香川實

被告

西武鉄道株式会社

右代表者

宮内巖

右訴訟代理人

中嶋忠三郎

外三名

主文

一  被告は、

1  原告塩野芳松に対し、別紙物件目録(以下「物件目録」という。)一ないし三の土地について、別紙登記目録(以下「登記目録」という。)一の条件付所有権移転仮登記の、

2  原告島田正二、同島田正一、同島田敏子、同島田むる、同島田弘子、同関根美代子に対し、物件目録四ないし六の土地について、登記目録二の条件付近所有権移転仮登記の、

3  原告岡田ユウ子に対し、物件目録七ないし一二の土地について、登記目録三の条件付所有権移転仮登記の、

4  原告岡田栄に対し、物件目録一三ないし一七の土地について、登記目録四の条件付所有権移転仮登記の、

5  原告岡田誠司に対し、物件目録一八、一九の土地について、登記目録五の条件付所有権移転仮登記の、

6  原告杉山重平に対し、物件目録二〇、二一の土地について、登記目録六の条件付所有権移転仮登記の、

7  原告嶌田和治に対し、物件目録二二ないし二六の土地について、登記目録七の条件付所有権移転仮登記の、

8  原告岡田満男に対し、物件目録二七ないし二九の土地について、登記目録八及び物件目録七七の土地になした登記目録三五の各条件付所有権移転仮登記の、

9  原告杉山正雄に対し、物件目録三〇の土地について、登記目録九の条件付所有権移転仮登記の、

10  原告岡田長重に対し、物件目録三一ないし三三の土地について、登記目録一〇の条件付所有権移転仮登記の、

11  原告小林正寿に対し、物件目録三四ないし三七の土地について、登記目録一一の条件付所有権移転仮登記の、

12  原告荒井武蔵に対し、物件目録三八ないし四一の土地について、登記目録一二の条件付所有権移転仮登記の、

13  原告榎本俊雄に対し、物件目録四二の土地について、登記目録一三の条件付所有権移転仮登記の、

14  原告榎本まん、同榎本正一、同榎本弘、同榎本誠、同榎本孝に対し、物件目録四三の土地について、登記目録一四の条件付所有権移転仮登記の、

15  原告粟飯原敬蔵に対し、物件目録四四の土地について、登記目録一五の条件付所有権移転仮登記の、

16  原告斎藤正光に対し、物件目録四五の土地について、登記目録一六の条件付所有権移転仮登記の、

17  原告大河原繁蔵に対し、物件目録四六ないし四八の土地について、登記目録一七の条件付所有権移転仮登記の、

18  原告島田金作に対し、物件目録四九の土地について、登記目録一八の条件付所有権移転仮登記の、

19  原告荒井徳次郎に対し、物件目録五〇、五一の土地について、登記目録一九の条件付所有権移転仮登記の、

20  原告岸昭三に対し、物件目録五二の土地について、登記目録二〇の条件付所有権移転仮登記の、

21  原告杉山憲一に対し、物件目録五三、五四の土地について、登記目録二一の条件付所有権移転仮登記の、

22  原告岸武太郎に対し、物件目録五五、五六の土地について、登記目録二二の条件付所有権移転仮登記の、

23  原告天沼福二に対し、物件目録五七ないし六〇の土地について、登記目録二三の条件付所有権移転仮登記の、

24  原告鈴木清吉に対し、物件目録六一の土地について、登記目録二四の条件付所有権移転仮登記の、

25  原告根岸仙太郎に対し、物件目録六二の土地について、登記目録二五の条件付所有権移転仮登記の、

26  原告根岸一太郎に対し、物件目録六三の土地について、登記目録二六の条件付所有権移転仮登記の、

27  原告井上善次郎に対し、物件目録六四の土地について、登記目録二七の条件付所有権移転仮登記の、

28  原告尾崎松四郎に対し、物件目録六五の土地について、登記目録二八の条件付所有権移転仮登記の、

29  原告岸野庄次郎に対し、物件目録六六、六七の土地について、登記目録二九の条件付所有権移転仮登記の、

30  原告野村亀吉に対し、物件目録六八ないし七〇の土地について、登記目録三〇の条件付所有権移転仮登記の、

31  原告粕谷昇に対し、物件目録七一の土地について、登記目録三一の条件付所有権移転仮登記の、

32  原告若海佳彦に対し、物件目録七二ないし七四の土地について、登記目録三二の条件付所有権移転仮登記の、

33  原告横溝健一に対し、物件目録七五の土地について、登記目録三三の条件付所有権移転仮登記の、

34  原告松本新八に対し、物件目録七六の土地について、登記目録三四の条件付所有権移転仮登記の、

35  原告新井寛二郎に対し、物件目録七八の土地について、登記目録三六の条件付所有権移転仮登記の、

36  原告前田信治に対し、物件目録七九ないし八一の土地について、登記目録三七の条件付所有権移転仮登記の、

各抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告ら

主文同旨。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  (条件付土地売買契約の締結)

(一) 原告塩野芳松は、昭和四四年六月一七日、同人所有の物件目録一ないし三の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金四五三万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二) 訴外島田清吉は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四ないし六の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金五八六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二の条件付所有権移転仮登記がされた。原告島田正二、同島田正一、同島田敏子、同島田むる、同島田弘子、同関根美代子は、昭和五四年一〇月一五日、訴外島田清吉の死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を共同相続した。

(三) 訴外岡田清吉は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録七ないし一二の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一二二一万七五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三の条件付所有権移転仮登記がされた。原告岡田ユウ子は、昭和四九年七月一八日、訴外岡田清吉の死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を相続により取得した。

(四) 原告岡田栄は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録一三ないし一七の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一〇一九万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録四の条件付所有権移転仮登記がされた。

(五) 原告岡田誠司は、昭和四四年四月一五日、同人所有の物件目録一八、一九の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金四八六万七五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録五の条件付所有権移転仮登記がされた。

(六) 原告杉山重平は、昭和四四年四月一五日、同人所有の物件目録二〇、二一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二四九万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録六の条件付所有権移転仮登記がされた。

(七) 訴外嶌田稲吉は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録二二ないし二六の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金六八三万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録七の条件付所有権移転仮登記がされた。原告嶌田和治は、昭和四七年八月三一日、訴外嶌田稲吉の死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を代襲相続により取得した。

(八) 原告岡田満男は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録二七ないし二九の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金五六四万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録八の条件付所有権移転仮登記がされた。

(九) 原告杉山正雄は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録三〇の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二七〇万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録九の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一〇) 原告岡田長重は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録三一ないし三三の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金八一〇万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一〇の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一一) 原告小林正寿は、昭和四四年九月一七日、同人所有の物件目録三四ないし三七の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金五七八万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一一の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一二) 訴外荒井富造は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録三八ないし四一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金九〇六万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一二の条件付所有権移転仮登記がされた。原告荒井武蔵は、昭和五五年五月一九日、訴外荒井富造の死亡により右土地の所有権及び売主たる地位を相続により取得した。

(一三) 原告榎本俊雄は、昭和四四年四月一五日、同人所有の物件目録四二の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一九八万七五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一三の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一四) 訴外榎本正雄は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四三の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一四七万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一四の条件付所有権移転仮登記がされた。原告榎本まん、同榎本正一、同榎本弘、同榎本誠、同榎本孝は、昭和五五年一二月二日、訴外榎本正雄の死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を共同相続した。

(一五) 原告粟飯原敬蔵は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四四の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一一三万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一五の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一六) 原告斎藤正光は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四五の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一六の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一七) 原告大河原繁蔵は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四六ないし四八の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金六四八万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一七の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一八) 原告島田金作は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録四九の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一八の条件付所有権移転仮登記がされた。

(一九) 原告荒井徳次郎は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録五〇、五一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金三三九万七五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録一九の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二〇) 原告岸昭三は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録二〇の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二〇の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二一) 原告杉山憲一は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録五三、五四の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金五〇〇万二五〇〇円で売渡し、右土地につき被告を権利者とする登記目録二一の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二二) 原告岸武太郎は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録五五、五六の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金三八三万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二二の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二三) 原告天沼福二は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録五七ないし六〇の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金七一八万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二三の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二四) 原告鈴木清吉は、昭和四四年六月一七日、同人所有の物件目録六一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二四の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二五) 原告根岸仙太郎は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録六二の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二五の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二六) 原告根岸一太郎は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録六三の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二四〇万七五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二六の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二七) 原告井上善次郎は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録六四の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一一三万二五〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二七の条件付所有権移転仮登記がされた。

(二八) 訴外尾崎ふくは、昭和四四年四月一五日、同人所有の物件目録六五の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金九〇万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二八の条件付所有権移転仮登記がされた。原告尾崎松四郎は、昭和五四年五月二〇日、訴外尾崎ふくの死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を相続により取得した。

(二九) 原告岸野庄次郎は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録六六、六七の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金四五三万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録二九の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三〇) 原告野村亀吉は、昭和四四年六月一七日、同人所有の物件目録六八ないし七〇の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金四九六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三〇の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三一) 原告粕谷昇は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録七一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三一の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三二) 訴外若海東平は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録七二ないし七四の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金五二五万円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三二の条件付所有権移転仮登記がされた。原告若海佳彦は、昭和五四年三月七日、訴外若海東平の死亡により、右土地の所有権及び売主たる地位を相続により取得した。

(三三) 原告横溝健一は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録七五の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三三の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三四) 原告松本新八は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録七六の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金二二六万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三四の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三五) 原告岡田満男は、昭和四四年四月九日、同人所有の物件目録七七の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として代金一二七万五〇〇〇円で売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三五の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三六) 原告新井寛二郎は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録七八の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三六の条件付所有権移転仮登記がされた。

(三七) 原告前田信治は、昭和四四年六月一三日、同人所有の物件目録七九ないし八一の土地を、被告に対し、農地法五条の許可を条件として売渡し、右土地について被告を権利者とする登記目録三七の条件付所有権移転仮登記がされた。

2  (許可申請協力請求権の時効消滅)

被告は、右前記1(一)ないし(三七)記載の各買受土地(以下「本件各土地」という。)について所有権移転を受けるため、前記各売主に対して、農地法五条の許可申請に協力を求める権利(以下「許可申請協力請求権」という。)を有していたが、告許可申請協力請求権は、前記各売買契約(以下「本件各売買契約」という。)成立の日から一〇年の経過により、時効消滅したから、原告らは、これを本訴において援用する。

3  (条件不成就の確定)

(一) 本件各売買契約は、被告の許可申請協力請求権が時効消滅したことにより、被告が本件各土地について農地法五条の所有権移転許可を得ることは不能となり、条件不成就が確定した。

したがつて、被告において将来本件各土地の所有権移転登記請求権を取得しないことは確定的であつて、本件各土地についてされた登記目録記載の各条件付所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)は、いずれも実体的権利関係に符合しない無効の登記であるから、被告は、その抹消登記手続をすべき義務がある。

(二) また、本件各土地について、農地法五条の転用許可を得ることは、次の理由によつて社会通念上不可能であるから、本件各売買契約は条件成就の不能により無効である。

(1) 本件各土地は、埼玉県川越市の市街地から遠く離れた純農村地帯に位置し、周囲は全面農地(田)である。したがつて、本件各土地を農地以外の目的のために開発すれば、周囲の農地に著しい悪影響を及ぼすことが必至であつて、これを農地以外の目的に開発することは不可能である。

(2) 本件各土地は、都市計画法上の市街化調整区域に指定され、現在、農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)により農業振興地域に指定されている。

(3) 被告は、当初、本件各土地に住宅地造成事業を企図したが、被告の買収した本件各土地を含む土地は、田圃地帯の真中付近を中心にしてその周囲各所にバラバラに点在するいわゆる虫食い状態であつて、現状では住宅団地建設のための住宅地造成をすることは事実上不可能であるうえ、市街化調整区域に属する農地、とりわけ本件各土地の如き集団的優良農地(「市街化調整区域における農地転用許可基準について」(昭和四四年一〇月二二日農林事務次官通達)による甲種農地)について住宅地造成事業を目的として農地転用許可を得ることは、許可基準に該当しないから法令上も不可能である(右農林事務次官通達参照)。

なお、その後被告は、学校法人城北学園(以下「城北学園」という。)に本件各土地の仮登記上の権利を譲渡することとし、城北学園は、昭和五〇年九月頃、学校建設を目的として、埼玉県知事に対し、農地転用事前審査申出書を提出したが、埼玉県知事は、昭和五〇年一〇月四日頃、本件各土地が市街化調整区域内の集団的優良農地(前記甲種農地)であり、かつ、農業振興地域内に属すること等から不許可の意見を出し、城北学園は右の事前審査申請を取り下げ、かつ、学校建設を断念している。

(4) 被告は、本件各売買契約締結後今日に至るまでの間、一度も転用許可申請をしたことがなく、原告らは、社会通念上相当の期間を超える長期にわたつて法的に不安定な状態に置かれているのであり、社会通念上相当の期間内に農地転用許可が得られない場合には、条件成就は不能と解すべきである。

したがつて、本件各土地になされた本件各仮登記は、いずれも無効の売買契約に基づくものであつて、実体的権利関係に符合しない無効の登記であるから、被告はその抹消登記手続をする義務がある。

4  (結論)

よつて、原告らは、本件各土地の各所有権に基づき、被告に対し、本件各仮登記の抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1(条件付土地売買契約の締結)の各事実は、すべて認める。

2  同2(許可申請協力請求権の消滅時効)の事実は否認する。

3  同3(条件不成就の確定)は争う。

(一) (一)について

本件においては、後記被告の抗弁1(消滅時効の起算点について)に主張するとおり、いまだ農地法五条の許可申請協力請求権の時効は進行していない。

(二) (二)について

(1) (1)の事実中、本件各土地が川越市街地の純農村地帯に位置し、周囲が全面農地(田)であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) (2)の事実中、本件各土地が市街化調整区域に指定され、かつ、農業振興地城に指定されていることは認める。

(3) しかしながら、市街化調整区域及び農業振興地域の各指定は絶対的なものではなく、市街化調整区域の線引の緩和、見直しは年度によつて行なわれ、また、農業振興地域の指定は、農業地域整備の基本方針が経済事情の変動、情勢の推移上必要に応じて変更され(農振法二条)ると、これに即応して変更又は解除される(同法七条)とされており、現に、本件各土地の大部分は、城北学園の誘致が行なわれた際、農用地の指定から除外されている。

したがつて、本件各土地が市街化調整区域に指定され、かつ、農業振興地域に指定されているからといつて、本件各土地について農地法五条の許可をすることが法律上不可能となつたというわけではない。

三  被告の抗弁

1  (消滅時効の起算点について)

(一) 農地法五条の許可申請協力請求権が消滅時効にかかる性質の権利であるとしても、消滅時効の起算点は、次の理由から農地の転用目的の条件が整い、売主、買主双方において許可申請をなしうるときと解される。すなわち、市街化調整区域内の農地については、都市計画法二九条の許可を要する開発行為の場合、右開発許可を伴うことが農地法五条の転用許可の必要条件となつており(「市街化調整区域における農地転用許可基準」昭和四四年一〇月二二日農林事務次官通達参照)、昭和四四年一〇月二一日、農林省農地局長と建設省計画局長との間で交換された「開発許可等と農地転用許可との調整に関する覚書」には、「開発許可権者又は転用許可権者は、許可に関する処分をしようとするときは、あらかじめ相互に連絡し、可及的すみやかに調整を図るものとする。都市計画法三四条一〇号イに掲げる開発行為については、事前審査等の措置を講ずることによりその円滑な調整を了した後に同時にするものとする。」とあり、開発許可申請手続は、開発行為許可申請前に事前審査の申出をしなければならない。そして、右開発行為の事前審査の申出をしないで農地法五条の転用許可申請をしても右許可申請が受理されることはなく、諸般の客観的条件の事前審査の段階において所轄行政庁の内示がされるのであるが、もしこの際開発行為が適当でないということになれば、開発行為の許可申請をすることができないから、農地法五条の転用許可申請もまたすることができない。

一般に消滅時効の起算点は、権利を行使することについて法律上の障碍がなくなつたときである。そして、右のとおり、市街化調整区域内の農地の開発行為について都市計画法二九条の開発許可を必要とする場合には、事前審査の内示を得てはじめて、同条の開発許可申請及び農地法五条の転用許可申請をすることができるのであるから、右の事前審査の内示を得るまでは、農地の売買契約における買主は、売主に対する農地法五条の許可申請協力請求権を行使することができないのであつて、それまでは、買主において農地法五条の許可申請協力請求権を行使するのに法律上の障碍があるというべきである。

(二)(1) 被告は、本件各売買契約を締結した当時は、本件各土地を利用して住宅地造成事業を計画していたが、昭和四四年末から同四五年頃に、本件各土地及びその周辺地域に石油ターミナル基地を建設する計画が表面化し、同四七年八月にかけて、右計画が打ち出されるに至つた。

(2) 右石油ターミナル基地の建設計画については、原告らを含め地元の反対が起こるとともに、城北学園を誘致する運動がなされ、同学園理事長からも、被告に本件各土地を学校用地として譲渡されたい旨の申し入れがされた。

(3) 被告は、当初の住宅地造成計画をとりやめ、昭和四九年七月一九日、右学園誘致を受け入れることとし、原告らの同意を得ると同時に、農地法五条の許可があつた場合に被告に対し所有権移転登記手続をすることに異議なく応ずる旨の念書を受領した。そして、本件各土地は昭和四五年八月二五日市街化調整区域に指定されており、被告は埼玉県知事に対し昭和四九年八月一六日付「土地有償譲渡届出書」を提出するとともに、農地転用のための事前審査を行う予定で農林大臣に対し書面を提出し、埼玉県は本件各土地を農用地から除外するに至つた。

(4) 右のとおり、本件各土地の農地転用計画は具体的に進行していたが、城北学園が本件各土地の譲受けを辞退するに至り、右計画は挫折のやむなきに至つた。

(5) したがつて、本件各土地について農地法五条の転用許可申請をする条件はいまだ整つていないから、消滅時効は進行していない。

2  (消滅時効の中断について)

(一) 原告らは、昭和五〇年九月頃、本件各土地を農業振興地域の農用地指定から除外すること及び城北学園に譲渡することに同意し、右譲渡につき許可をあつた場合には、被告に対して所有権移転登記手続をする旨の承諾をした。したがつて、原告らは債務の承認をしたというべきである。

(二) また、被告は、原告らとの間に、本件各売買契約締結の際、本件各仮登記がされた各翌日以降は本件各土地に対する公租公課を被告が負担する旨合意し、埼玉県川越市に毎年度の固定資産税の支払いをしてきた。右は、原告らの債務の承認とみるべきである。

3  (権利濫用)

本件各売買契約においては、被告は原告らに対し売買代金全額の支払いをしており、原告らは離農の意思をもつて農地を売却したのであつて、本件各仮登記がされた各翌日以降は、本件各土地の公租公課も被告が負担している。

右のとおり、被告は、本件各売買契約における義務のすべてを履行しており、現在農地法五条の転用許可申請だけが残されているところ、右転用許可申請は売主である原告らと被告との連名でするもので、原告らは農地転用ができるように努力しなければならないのにもかかわらず、かえつて、許可申請協力請求権につき消滅時効の援用をすることは権利の濫用である。

四  抗弁に対する原告らの認否<省略>

第三  証拠関係<省略>

理由

一原告らの請求原因1(条件付土地売買契約の締結)の各事実はすべて当事者間に争いがない。

二原告らの請求原因2(許可申請協力請求権の時効消滅)について

1  農地を農地以外のものにするために所有権を移転する場合には、当事者は、都道府県知事の許可(同一の事業の目的に供するため二ヘクタールをこえる農地又はその農地とあわせて採草放牧地について所有権を取得する場合には、農林水産大臣の許可)を受けなければならず(農地法五条一項本文、三条一項本文)、右の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない(同法五条二項、三条四項)から、農地を農地以外のものにすることを目的とする売買契約が締結された場合には、右の許可を受けるまでは所有権移転の効力を生ぜず、売買契約上の効力として、農地の売主は買主に対して所有権移転の効力を発生させるため買主に協力して許可申請をすべき義務を負い(農地法施行規則六条二項参照)、買主は売主に対して許可申請に協力を求める権利(許可申請協力請求権)を有するにすぎない。

これを本件についてみると、本件各売買契約が都道府県知事の右の許可を要するものであることは、前記当事者間に争いのない事実に徴して明らかであるから、買主たる被告は、本件各売買契約の成立によつて原告らに対して、本件各土地の所有権の移転を受けるために埼玉県知事に対する許可申請に協力を求める権利(許可申請協力請求権)を取得したものということができる。そうして許可申請協力請求権は、許可により初めて移転する所有権に基づく物権的請求権ではなく、また、所有権に基づく登記請求権に随伴する権利でもなく、売買契約に基づく債権的請求権であり、民法一六七条一項の債権に当たり、これが、農地法三条における場合と、同法五条における場合とで、その法的性質を別異に解すべきではないから、本件において、被告が原告らに対して有する農地法五条の許可申請協力請求権は、本件各売買契約成立の日から一〇年の経過により、時効によつて消滅するものといわなければならない(最高裁昭和四九年(オ)第一一六四号同五〇年四月一一日第二小法廷判決・民集二九巻四号四一七頁参照)。

三そこで、被告の抗弁について判断する。

1  (消滅時効の起算点)について

被告は、仮に農地法五条の許可申請協力請求権が消滅時効にかかるとしても、市街化調整区域内の農地の開発行為について都市計画法二九条の開発許可を必要とする場合には、開発行為が適当である旨の所轄行政庁の内示を得てはじめて同条の開発許可申請及び農地法五条の転用許可申請をすることができるのであるから、右事前審査の内示を得るまでは、農地の買主は売主に対する農地法五条の許可申請協力請求権を行使することができず、右請求権の消滅時効は進行しない旨主張する。

市街化調整区域内の農地の開発行為について都市計画法二九条の開発許可を必要とする場合には、右開発許可を得る見込のないままに農地法五条の許可申請を行なつても、許可を得ることは事実上できないのであるから、買主において売主に対し許可申請協力請求権を行使しても無益となるであろうことが推測されるところである。

しかし、消滅時効は権利を行使することをうる時から進行を開始するものであり、右にいう権利を行使することをうる時とは、権利を行使するに当たり当該の権利自体にその行使を妨げる法律上の障碍が存在しない状態をいうものと解すべきであつて、農地法五条の許可申請を行なつても同条の許可を得る見込みがないからといつて、買主が売主に対して許可申請協力請求権を行使することが法律上不可能であるわけのものではなく、したがつてまた、これが法律上の障碍に当たるということはできない。

そうすると、農地法五条の許可申請協力請求権の消滅時効は、当事者間に特段の合意が存在しない限り、売買契約が成立したときから進行を開始するというべきであり、本件において、被告と原告らとの間に、右消滅時効の始期を本件各売買契約の日以外に定めた等特段の合意があつたと認めるに足りる証拠はないから、本件各売買契約の成立によつて、被告が取得した農地法五条の許可申請協力請求権は、いずれも本件各売買契約の成立の日から消滅時効はその進行を開始するものというべきである。

被告の右主張は、採用することができない。

2  (消滅時効の中断)について

(一)  被告は、原告らが昭和五〇年九月頃、本件各土地を農業振興地域の農用地指定から除外すること及び城北学園に譲渡することに同意し、右譲渡につき許可があつた場合には、被告に対して所有権移転登記手続をする旨の承諾をしたから、原告らは債務の承認をしたものであると主張し、<証拠>によれば、被告が、当初本件各土地及びその周辺地域に住宅団地の建設を企図していたこと、その後昭和四七年八月頃、日本国有鉄道が右地域に石油ターミナル基地の建設を計画したが、地元では石油ターミナル基地の建設に反対し、城北学園を誘致する運動が起こるに至つたこと、その誘致運動の一環として、昭和四八年一二月、被告との間で農地の売買契約が締結され、原告らの一部を含む売主が連記のうえ、被告に対し売買契約の解約の申入れを行なつたこと、その後、同年一月頃と同四九年八月頃、被告が、城北学園から本件各土地及びその周辺に所在する、被告が既に所有者と売買契約を締結している土地の各仮登記上の権利の譲渡の申し入れを受け、昭和四九年一一月頃、原告ら売主に対し、城北学園に対する右仮登記上の権利の譲渡に関する説明会を開催したこと、以上の各事実を認めることができる。

しかし、右認定の各事実をもつて、本件各売買契約に基づく許可申請協力請求権について、債務の承認があつたということはできないし、その他に原告らが、被告に対し、消滅時効の進行を中断すべき債務の承認をしたと認めるに足りる証拠は存在しない。

(二)  次に、本件各売買契約締結の際、被告と原告らとの間で、本件各仮登記がなされた各翌日以降は本件各土地に対する公租公課を被告が負担する旨合意し、被告が埼玉県川越市に毎年度の固定資産税の支払いをしてきた事実は当事者間に争いがないところ、時効中断の効力を生ずべき債務の承認は、相手方に対してこれを表示することが必要であつて、被告が本件各土地についての公租公課を、原告らとの合意に基づいて負担した事実をもつて、原告らが、農地法五条の許可申請協力請求権の存在を承認したとみることができないことは明らかである。

したがつて、消滅時効の中断に関する被告の主張は、いずれも採用することができない。

3  (権利濫用)について

本件各売買契約において、被告が売買代金全額の支払いをしており、原告らが離農の意思をもつて農地である本件各土地を被告に売却したこと、本件各仮登記がなされた各翌日以降本件各土地の公租公課を被告が負担していることはいずれも当事者間に争いがない。

しかしながら、右事実関係をもつて、原告らが許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することが、直ちに信義則に反し、権利の濫用に当たるということはできない。

4  以上の次第であるから、本件各売買契約の締結によつて被告が取得した許可申請協力請求権は、いずれも本件各売買契約締結の日から一〇年を経過したことにより、時効により消滅したものというべきである。

三(条件不成就の確定)

本件各売買契約に基づく農地法五条の許可申請協力請求権が時効消滅したことは、前説示のとおりであるから、被告が本件各土地について農地法五条の許可を得ることが不能に帰したことは明らかである。

したがつて、本件各売買契約は、条件不成就の確定によつて無効であり、本件各土地についてされた本件仮登記は、いずれも実体的権利関係に符合しない無効の登記であるに帰する。

四結論

よつて、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(井田友吉 板垣範之 綿引穣)

物件目録<省略>

登記目録<省略>

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